今年度の年次報告書の表紙写真は、「ヒゲペンギン。サウスサンドウィッチ諸島」と名付けられています。 これは、現代でおそらく最も有名な自然写真家であるセバスチャン・サルガドが、「Genesis」ドキュメンタリーシリーズの一環として撮影したものです。
この写真を選択した理由は、美しさを通してグローバル化、持続可能性、生命の基盤としての自然の保護などの重要なテーマを連想させるからだけではありません。この写真ではそれに加えて、当社設立99年目のモットーである「先頭」が見事に表現されています。当社では、技術面でも文化面でも「先頭」に立つことをかねてより社是としていましたが、昨今の社会や経済の大きな変化を受けて、その思いをさらに強めています。この精神は、読み物コーナーに掲載されているフォトニクス、エレクトロニクスと量子技術に関するストーリーにも反映されています。
企業として先頭に立つには、先駆者精神を発揮して、サルガドの写真のペンギンのように思い切って未知の世界に飛び込まなければならないときがありますが(ドイツ語の諺では「冷水に飛び込む」と表現します。しかもこの場合は、アルゼンチンと南極の間に広がる極寒の南大西洋に命の危険も顧みず飛び込んでいくことになります)、それは至極当然のことです。しかもそれを、急速なテクノロジの転換に加えて、地政学上の社会環境条件が鉄のカーテンの消滅以来見られなかったほど急激に変化している時代に行うには、多大な勇気を必要とします。
そういった意味で、2021/22年度は当社にとっても困難な一年となりました。2022年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始した後、TRUMPFは数多くの他社と同様にこの侵攻に対して毅然とした態度で臨み、すべての事業活動を停止しました。その結果、当社の事業が直接的にも間接的にも影響を受けることなったほか、供給不足や中国でのコロナ感染症再燃といった問題もありましたが、それでも当社は高い業績を上げることができました。これは、全従業員の多大な努力の賜物です。
当社製品に対する需要が世界中で高まったことに支えられ、受注金額は過去最高の56億ユーロ(前年度39億ユーロ、前年度比42パーセント増)に達しました。売上高の伸び(今年度42億ユーロ、前年度35億ユーロ)はそれ程ではありませんでしたが、それには一次製品の供給不足が関係しています。利払前税引前利益は4億6千8百万ユーロ(前年度3億7千万ユーロ)に増加しました。材料費、物流費と光熱費が高騰したにもかかわらず、収益率は前年度を上回る11.1 %(前年度10.5 %)を記録しました。
2022年2月9日以降、TRUMPF SE + Co. KGの新商号のもとで無限責任社員として活動しているTRUMPFグループは、地政学的情勢と景気が不安定ではあるものの、設立100周年記念となる2023年夏に向けて、今期を慎重ながら楽観的に見据えています。この楽観的な見方の礎となっているお客様とパートナーの皆様、そして全従業員にお礼を申し上げます。見た目も美しいこの年次報告書には、興味深いストーリーも掲載されています。どうぞお楽しみください。
ニコラ・ライビンガー = カミュラー