鋼鉄容器の中では紫色の炎が燃えています。微光を受けているヴォイチェク・ガイェフスキーの周囲には、ノートパソコンやジェネレーターにつながっているケーブルが散乱しています。物理学博士である彼は、ワルシャワ都市圏にあるTRUMPF拠点で約10年前から働いています。「今日、プラズマなしで成り立つ業界はごくわずかしかありません。ホームセンターにある工具やカメラの光学レンズの製造にも必要な存在になっています。プラズマは、建築用ガラス、テレビ画面や携帯電話のディスプレイの表面加工で使用されています」とガイェフスキーは述べています。彼とその研究チームは、プラズマチャンバー内でのプロセスを極小の粒子に至るまで分析し、プラズマジェネレーターの改良に常時取り組んでいます。ガイェフスキーは紙とペンを取り出して、略図を描きながら、プラズマチャンバー内で実際に発生していることを次のように説明しています。「基本的には、層の生成と剥離という2つのプロセスが該当します。どちらの場合でも、プラズマが最適な手段となります。そこでは、アルゴンなどの貴ガスを使用しています。このガスは調達しやすく、低コストです。当社のジェネレーターを使用して、エネルギーを供給することで、プラズマが発生します。これにより、ありとあらゆるものにコーティングを施すことができます。大量のエネルギーを使用すれば、材料に構造をもたらすことだけでなく、穴をあけることさえも可能になります。このプロセスのことを、専門家はプラズマエッチングと呼んでいます」とガイェフスキーは述べています。
キズがつかないスマートフォン
ガイェフスキーは自分のことを、TRUMPF開発部門とお客様のプラズマプロセス担当者の間の橋渡し役と捉えています。プラズマジェネレーターには、お客様の現場で出来る限り「プラグアンドプレイ」の原則でプロセスに組み込めることが求められています。「お客様の要望に焦点が当てられています。正しい設定を選択すれば、どのような結果が得られるかをお客様に示しています」と、プラズマチャンバーが多数ある研究室の中を歩きながらガイェフスキーは述べています。ここで彼のチームは、この世界のハイテク工場でのアプリケーションをシミュレートしています。それぞれの実験が終わると、キズがつかないスマートフォンディスプレイ、ソーラーセル用の新種のコーティングや半導体上での非常に精緻な構造など、各種の用途に向けた取扱説明書のようなものが完成することになります。
チップ業界の電力コントローラー
TRUMPFはオランダのASMLだけでなく、半導体業界のその他の有力企業にもプラズマジェネレーターを供給していますが、このジェネレーターは、最先端のメモリ・AIチップの製造に不可欠な存在となっています。アガタ・ドゥルは、業界のニーズを良く理解しています。そしてチームメンバーと一緒に、最善のプラズマを得るための極めて洗練された電力制御方法を考案しています。なぜならば、プラズマの状態が良ければ良いほど、チップ上に配置できる配線経路の数が増え、性能も高くなるからです。そしてTRUMPFのジェネレーターは、そのカギを握っています。「ソーラー分野では、非常にスピーディーである必要があります。医療分野では、品質が最も重要です。半導体市場では、その両方が、すなわちスピーディーであることと完璧であることが求められています」とドゥルは述べています。プラズマを産業用に生成することで、非常に細かく制御可能で、極めて精緻な構造の製造を可能にする生産環境が生み出されます。これは、シリコンウェーハを複数の多層チップに変換する際に理想的です。「当社がここで製造しているプラズマジェネレーターは、世界で最先端の部類に入るものです」とドゥルは説明しています。TRUMPFのジェネレーターは、最大で毎秒400,000回の頻度で非常に高い電圧をオンにして、再びオフにすることができます。「この強力な短パルスを利用することで、半導体上により精緻な構造を形成させることができます。ここで話題にしているのは、短めのナノメートルレベルの単位です」とドゥルは述べています。ナノメートルとは、10億分の1メートルのことです。参考までに挙げると、人間の髪の毛の直径や約80,000ナノメートルです。
太陽光発電の発電量を増加
世界中の全ソーラーモジュールの半分以上も、既に現時点でTRUMPFのエレクトロニクス事業部門のハイテクを駆使して製造されています。「太陽光発電システム製造時の心臓部は、どの場合でもジェネレーターです。これを使用して、各メーカーがシリコンウェーハ上に一層ごとに膜を生成させることで、ソーラーセルが1個ずつ生み出されます。当社のジェネレーターは、このプロセス用のプラズマ生成に必要なエネルギーを正確に安定供給しています」と、TRUMPFのエレクトロニクス事業部門でバイポーラ製品ライン責任者を務めているヤクブ・ストゥドゥニアレクは説明しています。現在では、プラズマジェネレーターを使用すれば、効率の飛躍的な向上が得られるようになっています。従って、エネルギーミックスに関して、ソーラーモジュールが果たす役割は近いうちにより一層重要になることが見込まれます。「現在当社では、TOPConテクノロジーと呼ばれる技術に取り組んでいます。これがあれば、各メーカーはセルの効率を向上させることができます。その理由は、このテクノロジーでは、天気が悪い場合でも良好な結果が得られるからです」とストゥドゥニアレクは説明しています。TOPConセルのハイパワーの背景には、それ専用に開発され、非常に薄い膜の生成を産業レベルで初めて可能にしたプラズマチャンバーがあります。「以前は連続生産する上で、電流、電力と電圧の適切な組み合わせを生み出すテクノロジーが欠けていました。最初から自社のプラズマジェネレーターで参画していた当社は、この課題に立ち向かうことにしたのです。当社は、このプロセスを細部に至るまで制御できる希少な専門企業の一社です」とストゥドゥニアレクは述べています。
産業界向けのグリーンな溶解炉
ソーラールーフから生産現場の内部に視点を移しましょう。セメント、鋼鉄やガラスの加工では、ガス・オイルバーナーから高温の熱が供給されていますが、その熱源は化石燃料です。 その状況をゲルト・ヒンツは、化石燃料から電気へと熱源を転換することで、何としても変えようとしています。ですが、産業界での電化は、家庭のコンロのような些細なことではありません。摂氏1,000度以上の温度では、出力と安定性が特に重要になります。TRUMPFエレクトロニクスの開発チームと協力しながら、ゲルト・ヒンツは気候に優しいプロセス電力供給装置の開発に一緒に取り組みました。その結果として生み出されたサーマルプラズマバーナーでは、ジェネレーターを要件に応じて特殊な周波数で励起することで、化石燃料による加熱プロセスに取って代わることが可能になっています。今日、ゲルト・ヒンツはTRUMPFのアプリケーションエンジニアと一緒に、潜在的なパイロットカスタマーに対して、各社に最適なプラズマバーナーテクノロジー、必要な周波数、短い投資回収期間について説明しています。この傾向は今後強まり、ゲルト・ヒンツは、エネルギー集約型産業のプロセス熱源は、2030年には異なったものになり、グリーンの電気が巨大な炎を生み出すようになっているはずだと考えています。







