リサイクルでの最大の問題は分別です。使用済みの機器や物品を細かくきちんと解体すればするほど、回収できる原材料の量も増えます。ですが、組み立てられている物品の多くは、そう簡単に解体することはできません。
スクラップの中から宝を発見
更に2つの例をご紹介します。電気自動車用バッテリーの電極の製造では、貴重なリチウム、コバルトやニッケルで箔にコーティングが施されていますが、その中には品質検査ではねられるものもあります。 その場合はレーザ光によって極薄の膜が再び剥離され、貴重な粉塵が回収され、資源循環に戻されています。また、アルミニウム製の道路標識では、表記内容が古くなったか外見が損なわれると、廃棄物として捨てられることになりますが、その理由は、義務付けられている特殊フィルムを再び剥がすことができないためです。ですがCO2レーザを使用すれば、このフィルムを残留物なしで素早く剥がすことができるのです。

レーザはリサイクルに貢献することができ、道路標識や電気自動車用バッテリー廃棄物の再利用だけでなく、スクラップの中から宝を発見する際にも役立っています。
資源利用での王道は昔から、投入量を減らしながら少なくとも同じ結果を得ることにあります。従って、効率に関するこのモットーが何十年も前からレーザ加工で実践されているのは、驚くべきことではありません。
リチウムイオンバッテリーの製造で、エネルギー消費量が最も多い工程は、湿式コーティングした電極箔の乾燥です。電極箔が最大100メートルにもなる対流炉を通過する間に、熱風が吹き付けられます。投入するエネルギー量は膨大ですが、乾燥効率は低劣です。そこでアーヘン工科大学の科学者たちは、加熱VCSELを使用して同じ結果を得る方法を検討しました。この方法では、わずか10メートルのライン上で、極小の赤外線レーザ源が電極を乾かします。この工程は、長い対流炉の場合よりも大幅に高速であるだけでなく、エネルギー消費量も約40パーセント少なくなっています。
上記に加えて、太陽光発電と船舶航行でも、効率のより一層の向上が可能になっています。砂漠に設置された太陽光発電モジュールでは、砂塵が積層することによって、わずか1か月のうちに出力が最大30パーセント失われてしまいます。これに関して、お互いに重なり合うレーザ光を活用することで、砂塵の付着を能動的に防止する表面構造がもたらされています。また船体には、微生物、藻、海草、貝やフジツボが付着します。これにより、燃料消費量が最大60パーセント増加してしまいますが、ダイオードレーザを照射することで、海藻・海草類を確実かつ完全に除去することが可能になります。

レーザテクノロジーは省エネに貢献しており、バッテリー箔を低エネルギーで乾かし、船舶航行での燃料を節約し、太陽光発電モジュールを清潔にしています。
誰でも受けられる治療
強力なX線は、癌細胞に対して効果のある治療法ですが、患者の体への負担も非常に高くなります。 電子線による治療であれば、X線の場合よりも照準を正確に合わせて癌細胞に狙いを定めることができ、周囲の組織を損傷することがないため、体への負担が軽くなり、効果も高くなるのですが、電子線発生装置は巨大で、非常に高価であるため、ほとんど存在していません。 それが今、電子を全く異なる方法でレーザで加速させる方法が考案されたことで、どちらのデメリットも変わりつつあります。そうなれば、これまでよりもはるかに多くの患者にとって、効果が高く体への負担が軽い癌治療を受けることが可能になります。
上記に加えて、他の分野でも、レーザを活用することで、世界中で良質な医療供給が受けられる人数が増加する可能性があります。例えば、コネチカット大学のバーラム・ジャヴィディ教授は、レーザベースのデジタルホログラフィック顕微鏡と呼ばれる非常に高度な技術を使用しながら、出来る限り安価で頑丈な材料から、短時間で血液を検査できる装置を医療インフラが劣悪な地域専用に製造することに成功しています。また多くの人々にとって、高品質の義歯は高価すぎて手が出せない存在となっていますが、 金属積層造形法の一種であるレーザ粉体肉盛りが著しく進歩することで、義歯のコストが下がり、誰でも受けられる治療になっていくはずです。

Industrial lasers not only lead to improved medical equipment. They also mean that more people worldwide have access to good healthcare.
高性能の燃料電池
エネルギー転換とは、巨大な太陽光発電装置、風力発電機や水力発電所の設置だけを意味するものではありません(もちろんこれも大事ですが!)。それに加えて、新しい発電方法に柔軟に対応できるように電力網をしっかりと整備し、水素などの代替エネルギー源の活用度合いを高めることも重要になります。
トラック、建設機械やバスなどの大型車両では、エネルギー密度がより高く、モーターに電力を供給するエネルギー貯蔵システムが必要であり、それには水素や燃料電池などが該当します。ここでは、PEM(プロトン交換膜)燃料電池と呼ばれる電池が優れた解決策になりますが、この構造では、電池内での水と気体の移動を長期間にわたって効率的に維持することが主要な課題となります。 ここが超短パルスレーザの出番になっており、同レーザを使用して、電池内部に機能構造と細孔がもたらされています。この技法は、PEM燃料電池の性能と効率の向上、そして耐用年数の延長に貢献します。
また、高効率のヘテロ接合ソーラーセルの導電路と接点では、貴重な銀が必要になりますが、ドイツのスタートアップ企業が、銀の代わりに銅を使用する方法を生み出しました。 ここで採用されている方法では、ガルバニック処理とレーザストラクチャリングが組み合わされています。なお、太陽光発電所と風力発電所の事業者が、電力網の安定性を昼夜を通して維持するには、レドックスフロー電池などの柔軟な蓄電池が必要ですが、新開発のVCSELベースのレーザ溶接法を用いることで、その製造コストの大幅な低下が可能になっています。

レーザ技術は、高性能の燃料電池を生み出し、太陽光発電装置のコストを低下させ、安定した電力網に欠かせない蓄電池を推進する可能性を秘めています。
無害なスクリーン
スマートフォン、タブレットや電子書籍リーダーのディスプレイには、最適な画像を常に映し出すことが求められています。それは、眩しい光が当たる場合も同様であり、反射してはならないため、ノングレア加工が必要になります。 ですが、この加工ではこれまでは、産業界でおそらく最も有害で危険な化学薬品であるフッ化水素酸にディスプレイガラスを浸すことが不可欠になっています。そこで現在TRUMPFのエンジニアたちは、フッ化水素酸を生産現場から完全に無くすレーザ加工法の開発に取り組んでいます。無害な超短レーザパルスをディスプレイガラスに当てることで、有害物質を使用した場合と同様のノングレア効果が得られます。申し分のない結果が得られており、後はこのレーザプロセスの規模を拡大するだけとなっています。
レーザクリーニングは他の領域でも使用されています。各種の部品では、油が付着しているか、汚れているか、酸化物層が形成されていることが少なくありませんが、レーザ光を使用すれば、汚れが蒸発し、酸化物層が簡単に剥離されます。 接触面がごくわずかな場合は、狙いを定めてレーザ加工することが可能です。レーザクリーニングでは、廃棄する必要のある化学系廃棄物が発生することはありません。プリント基板の保護でも、上側の導電層(大抵は金か銅)をエッチングして除去することが通常行われてきましたが、この工程では廃棄しにくい有害廃棄物が発生してしまいます。 ここで超短パルスを使用すれば、導電路周辺の銅または金が剥離されます。狙いを定めて行われるため、その下にある材料に熱が入り込むことがなく、腐食性化学薬品は全く必要ありません。

レーザクリーニングを活用することで、部品に付着している油の除去、スマートフォンディスプレイの反射防止加工、プリント基板の銅を含む導電層の処理などで、化学薬品のない生産現場が実現します。
マイクロプラスチック対策フィルター
マイクロプラスチックとは、5ミリメートル未満で、小さいものではナノメートルのレベルにまで至る粒子のことを指します。深海や南極などいたるところに存在し、魚類の体内や人間の循環系などでも検出されています。生物や生態系への影響に関する研究は、まだ詳細には行われていませんが、既に判明している事柄は、安心できるものではありません。従って、少なくとも下水からマイクロプラスチックをフィルターして取り除き、総汚染量を減らすことが重要であると言えます。ただ、マイクロプラスチックは小さいのが欠点です。フィルターの孔も、それに応じて極小でなければなりません。そんな中で、複数の企業と科学者の合同プロジェクトが、サイクロンフィルターと呼ばれるフィルターに数百万個の孔を超短パルスレーザであけることに成功しました。この工法の経済性を高めるため、プロジェクトメンバーはレーザ光を分割し、100個以上の孔を同時にあけることにしました。このフィルターは、10マイクロメートル以上のプラスチック粒子を捕集します。
また、研究センター、大学、企業と農業組合から成るヨーロッパの連合体が、レーザによる雑草除去装置のプロトタイプを製造しました。この自律走行車両では、AIベースの画像検出システムによって雑草が識別されます。ファイバーレーザ源からエネルギーパルスがミリメートル単位の精度で放射され、雑草が除去されます。なお、鶏卵の中のひなの性別判定でも、レーザが役に立つ可能性があります。雄鶏か雌鶏かの判別は重要ですが、その理由は、オスのヒヨコは生きたままシュレッダーで殺処分されるのが慣例になっているためです。 そこで自動レーザ法を使用すれば、卵の中の胚の時点で性別が検出されるため、この残虐行為が終わることを意味します。

Global warming poses a key threat to our ecosystems, yet there remain many other “classic” conservation and animal welfare issues to be resolved in areas such as agriculture, livestock rearing and marine pollution.




