リーデさん、周回軌道での問題はどれぐらいの規模なのでしょうか?
リーデ氏:現在の量は、エッフェル塔の1.5倍に相当します。制御不能なスペースデブリの質量はそれほどまでの水準に達しており、約13,000トンのゴミが地球の周りを絶えず回っています。周回軌道に溢れる人工衛星インフラストラクチャーが益々速いペースで増えているため、スペースデブリと人工衛星の総質量は2030年までに、つまりわずか5年後に倍増するか、場合によっては三倍になると見積もっています。
スペースデブリとはそもそも何なのでしょうか?
リーデ氏:サイズは、砂粒程度のものから非常に大きいものまで様々です。まずは、68年にわたる宇宙飛行の歴史の中で投下されたロケット段などの大型物体が約50個あります。それには例えば、欧州宇宙機関ESAの巨大な地球観測衛星Envisatも含まれます。これは、2012年に原因不明で通信が途絶えてしまったものです。そのほかに、壊れた小型衛星も多数あります。それに加えて、サイズが10センチメートル以上で、地球から追跡可能な小型部品が約40,000個あります。さらに、それより小さい物体が何百万個もあり、その大部分は位置さえも確認できていません。
ロケット段と壊れた人工衛星については理解できるのですが、 大量の小さいゴミはどこから発生するのでしょうか?
リーデ氏:原因は不意の、または意図的な衝突ですが、多くは衛星破壊実験と呼ばれる行為から発生しています。冷戦時代に、米国とソ連が人工衛星をロケットで破壊できることをそれぞれ相手に対して証明しようとしたのですが、それが今でも続いているのです。 2007年には中国が、2021年にはロシアが自国の人工衛星を破壊しました。どちらの場合も、爆発後に周回軌道上に巨大な瓦礫の雲が残りました。
そうですか。でもまあ宇宙空間は広大ですからねえ…
リーデ氏:確かに空間は広大ですが、物体は動いていて、地球の周りを最高時速28,000キロメートルの猛スピードで回っています。分かりやすく言い換えると、秒速8キロメートル弱に相当することになります。どの物体にも独自の周回軌道があり、土星の環のように全部が隣り合って綺麗に揃って周回しているわけではなく、メチャクチャに入り乱れて飛んでいるのです。それに、物体は回転しているため、周回軌道が常に少しずつ変化しています。そのため、国際宇宙ステーションISSや、正常に機能している多数の人工衛星のひとつが、スペースデブリと衝突する軌道に入ることがあるのです。ぶつかり合うと、膨大なエネルギーが解放されるのですが、これを地球上で再現することはほぼ不可能です。レーザ技術者であれば、次の値を聞けば何となく想像できるかもしれません。直径1ミリメートルの極小粒子が周回軌道上で衝突した際に発生するエネルギーは、70ジュール/平方ミリメートルにも上ります。これはとてつもない量のエネルギーです!端的に言うと、粒子が当たった人工衛星は打ち抜かれるか、一気に粉々になります。何百万ユーロもの金額が失われ、地球上で利用しているインフラストラクチャーが破損することになります。これが問題なのです。

シナリオ:周回軌道上のゴミが、人工衛星と衝突する軌道に入り、その衛星を破損または破壊するおそれがある状況で、連動した10基の地上ステーションが地球からゴミにレーザを照射して、その軌道を逸らして、衛星に被害が及ばないようにしています。
えっ、そうなのですか。ではその対策とは?
リーデ氏:2種類の方法があります。一つ目は、衝突が予測される場合に、人工衛星がそれをかわす方法です。ISSはそれを常に行っているようなものです。ただ、ISSには燃料が補給される一方で、人工衛星には補給されません。人工衛星では、回避運動の回数が限られており、回避するたびに総寿命が短くなり、膨大なコストが発生することになります。二つ目の方法として、ゴミ除去宇宙ミッションが繰り返し行われています。このミッションでは、中サイズのスペースデブリをロボットアームで掴んで、簡単に言えば大気圏に向かって下に投げ飛ばして、そこで燃え尽きるようにしています。これは多額のコストがかかり、大抵のスペースデブリでは考慮の対象になりません。これから分かるように、どちらの方法も非常手段なのです。必要なのは、真の解決策なのです!
そして、その真の解決策を見つけたと?
リーデ氏:そう思っています。英語名はLaser Momentum Transferなのですが、私たちは愛嬌を込めてレーザプッシュと呼んでいます。ドイツ航空宇宙センターDLRのチームが、その仕組みとなるコンセプトを考案したのですが、その原理は単純明快です。レーザ光の光子は、光圧と呼ばれる圧力を及ぼします。 それはごくわずかなのですが、周回軌道を猛スピードで移動しているスペースデブリでは、決定的な違いを生み出すことができます。 高出力レーザがゴミに前から当たると、ゴミは減速します。後ろから当たると、ゴミは加速します。さらに言うと、減速したゴミは下降し、加速したゴミは上昇します。 これを利用して、地上からゴミを簡単に衝突軌道から押し出すことができるのです。
でも、それには問題があるんですよね?
リーデ氏:レーザステーションが1基ではなく、10基必要で、それを地球全体に配置しなければならないのです。
どうしてですか?
リーデ氏:光圧は本当にごくわずかで、スペースデブリの速度を秒速10マイクロメートルしか変化させることができません。 つまり、一定の効果を得るには、長時間照射する必要があります。対象物が地平線上に見えるようになった状況を想像してみてください。その場合、秒速8キロメートルの飛行速度では、反対側で再び消え去ってしまうまでに目で確認できる時間は約10分です。ですが、地平線に現れた瞬間から照射することはできません。角度が平坦で、ビームが非常に広大な空域を通過することになってしまうからです。私たちは、民間航空機の飛行禁止空域しか使用することができず、それは、地上ステーション周囲の特定の半径内に限られています。従って、対象物が接近してくるまで待つことになります。そして、対象物に前または後ろから照射して、減速または加速させなければなりません。その結果、時間の幅はさらに半減し、接触できる時間は最終的にわずか2~3分になります。これは、進路をちゃんと逸らすには不十分です。この方法が上手くいくには、10基の地上ステーションが連動し、上空を10回通過する間にわたって対象物に照射することが不可欠になります。これは言ってみればレーザリレーのようなものです。
分かりました。ですが、周回軌道上の小さな物体に命中させることはそもそも可能なのでしょうか?
リーデ氏:それは問題ありません。航空宇宙業界では、既に何年も前から非常に正確なレーザ手法を本件のような長距離に使用しています。例えばそれを使用して、スペースデブリをまず検出しています。厄介なポイントは違うところにあるのです。
それは何ですか?
リーデ氏:どれぐらい前に衝突を正確に予測できるかです。これは簡単なことではありません。天気予報と同様に、先のことになればなるほど、予測は困難になります。ですが、地上ステーションでは数日間の準備期間が必要になるので、この問題に取り組んでいるところです。
レーザプッシュが上手くいったことはあるのですか?
リーデ氏:実際に試したことはまだありませんが、これは航空宇宙プロジェクトでは普通のことです。地上ステーションに加えて、人工衛星2基を組み合わせて連携させて、照射中にその効果を測定して通信する必要があるのですが、 この人工衛星がまだないのです。
ということは、まだ机上の空論に過ぎないのでは…
リーデ氏:そんなことは全くありません!正直言って自分でも驚いているのですが、このDLRプロジェクトはちょうど今ペースが上がっています。ESAがこのプロジェクトを管轄することになり、私たちに地上ステーションの設計を依頼したのです。そしてレーザ装置のパートナーとして、TRUMPF Scientific Lasersの協力が得られることになりました。資金調達、建設、地上ステーションの選択など、すべてが完璧に進めば、原則的に上手く機能することを5年後に証明できるようになるでしょう。もちろん、すべてが完璧に進むことはおそらくあり得ないでしょうが、実現までの期間はそれほど長くはないと思っています。

左:パルスレーザ光は物体に非常に激しく当たり、そこで発生したプラズマフレームによって物体が逸らされます。長所:物体が上空を1回通過するだけで済むため、準備期間が短くなります。短所:物体が砕かれ、危険なスペースデブリの数が1つから複数になるリスクがあります。
右:連続レーザ光は光子の圧力を利用して、物体を穏やかに軌道から押し出します。長所:物体が粉々になるリスクがありません。短所:十分な効果を得るには、物体が上空を最大10回通過する必要があり、準備期間が長くなります。
このプロジェクトに対する関心が急に高まったのはなぜでしょうか?
リーデ氏:先ほど言ったように、人類は周回軌道上のインフラストラクチャーを大幅に増強していきます。例えば、Starlink衛星ネットワークなどのモバイルインターネット用装置として。スペースデブリはそれを妨げる問題であり、その規模は悪化する傾向にあります。インフラストラクチャーの増強に伴って、新しいゴミが発生するからです。そのため、近いうちに解決策が必要になっているのです。
レーザプッシュの費用は誰が負担することになるのでしょうか?
リーデ氏:最初の一歩は、現在ESA加盟国の分担金で賄われています。ですが最終的には、Laser Momentum Transferをサービスとして、周回軌道上のインフラストラクチャー保護を目指す民間企業、組織や国に市場で提供していく予定になっています。すべてのステークホルダーが事の重大さを理解すれば、このテクノロジーの実現に向けた資金調達はさしたる問題にはならないでしょう。また、ドイツでは宇宙の文字が名前に刻まれた連邦省が初めて設立されたため、国政からの支援も期待しているところです。




